好きだと気付いた瞬間に失恋した話。

7年間、好きな人がいた。

でも、7年間、好きだったとは気付いていなかった。

最近、失恋をした。相手の結婚で気づいた。

 

 

大学一年生、18歳のとき、アルバイトを始めた。彼は、そこで一番に仲良くしてくれた、2歳上の先輩だった。

先輩はバイト先では問題児だった。でも決して不真面目だったわけではない。

のちに知ったが、私の尊敬している先輩とも付き合っていた。適切な言葉なのかわからないが、天然の人たらしだったと思う。半年~1年ごとに彼女が違った気がする。

結果、女性を軽くトラウマに陥れてしまうような、少し小悪魔的な性格だったけど、接客のバイトだったが人柄がとても良く、常連さんにも、同僚にも、ほんとうに好かれていた人だと思う。

 

私も、先輩のことが先輩として大好きだった。

 

バイト先からの帰り道、よく二人で飲みに行った。

私は車を持っていたので、よく二人で遊びに行った。

 

私は、男女の友情は成立すると思っている。特にその先輩とは他の誰とよりも一緒にいる時間が長かった。その間のエピソードは思い出してもとても楽しいものだったし、書ききれないほどに、たくさん、ほんとうにたくさんある。

  

 

先輩は1年間大学を休学したため卒業は実質2年遅れ、卒業は私と同時だった。

 

私は先輩と、二人で卒業旅行に行った。

私と先輩の仲を知っている数人は、旅行のことも知っていたけど、口ぐちに「男女で旅行に行って何もないの?」と言われた。何もなかった。

 

 

大学を卒業して、私は県外に就職した。縁もゆかりもない土地に引っ越したため、月一のペースで実家に帰っていた。というより、先輩に会いに帰っていた。

先輩も、流れに身を任せて生きているような人で、「人と約束するのは苦手」と言いながら、私が帰省する予定を知らせると、飲みに行ったり、遊びに行ったり、相手をしてくれた。

実家に帰省するつもりが、先輩の家に入り浸ったこともある。

 

でも、だんだん帰省するペースが三か月に一回、半年に一回、と減った。

 

当時、私が、不倫をし始めたからだ。

 

 

 

最近、先輩は結婚した。

 

先輩は、就職をしたころ、会うといつも「結婚するならおまえだな」と言っていた。

二人の間に流れていたのは、友達なのか、恋人なのか、でも兄妹でもあるような、不思議な空気だった気がする。

当時の私は「好き→恋人になる→結婚する」と信じていたし「結婚?まだまだ」と思っていた22歳。笑ってごまかしていた。

 

 

最近になって好きだと気付いたと言ったが、当時、もう心のどこかで気づいていた。

でも「好き」と言ったらダメな気がしていた。

 

「異性同士だけどいつも一緒、二人は大親友」と見ていた周りも、きっとそれを望んでいなかった。4年かけて培った友情は、きっと周りから見て美しいものだった。共通の知り合いはたくさんいたし、男女の関係になることで、急に人間味が増すのも嫌だった。

 

 

 

先輩が結婚式を挙げた週。ご無沙汰となっていたが、二人でバーでお酒を飲んだ。

今でも先輩は「結婚するならおまえだな」と言う。よく二人で遊んでいたころを思い返して「あの頃おまえから告白されてたら、今おまえと結婚してたと思う」とも言った。

 

 

アルバイト先で出会ったころ、接客の仕事で輝く先輩に、心底憧れていた。

 二人で毎週お酒を飲んでいたころ、ほろよいでふざけて遊んだ公園のブランコは、とても楽しかった。

 二人で毎日遊んだころ、一緒に肩を並べて飲んだ、大好きなコーヒーはいつもとてもおいしかった。

 二人で旅行に行ったころ、このまま二人でいろんなことを経験できるといいなと思っていた。

 

そんな日々を過ごす中で、この先いくつ年を重ねても、お互いにどんな試練があっても、支え合っていけると感じていた。心地よくて素敵な関係だったんだ。

そしてこれは、一般的にいう「好き」という感情だったんだ。

 

今頃になって気づいた。

 

 

私はその場で、なぜか、不倫をしていたことを告白した。

誰にも伝えていない。押し黙っていたけどなぜか口から出た。まずい、何でこんなことを、と思ったけど、泣きながら不倫を告白すると同時に、好きと言えなかった過去の自分に後悔しはじめた。

 

慣れない土地で助けてくれた年上の既婚男性に、簡単になびいた私を戒めたかった。

知らない間に結婚してしまった先輩に、先輩と疎遠になった理由が「慣れない土地でつらかった」ことだと知ってほしかった。

このタイミングで不倫を告白したのは、私のエゴだし、何の関係もない。

 

 

 

「結婚するならおまえだな」と同じようなことを、私も多分思っていた。私も当時から、先輩とならいつまでもずっと一緒に居れると、思っていたと気付いた。

 

悔しかった。

これは、思いきり失恋だった。

 

先輩は「言ってくれたら助けたのに」と言った。そして「気持ちは変わらない、いつまでも一番の親友でいてくれ」と言った。

私も、泣きながら「先輩のことが、人の中で一番好きです。」と言った。

 

不倫を告白し、とんでもない恥をさらしているとき。不倫は二度としないと誓ったけど、先輩の「天然人たらし」っぷりは、このタイミングで私を揺さぶった。

 

今でも好きだった。恋とは違う気がするけど。

 

先輩が結婚していなければ、

私に勇気があれば、

好きとか恋人とか全部超えて、「結婚してください」って、今なら言えた。気がした。

 

 

私は、一番の親友を譲らないと決めた。

 

 

「今の嫁と離婚したら、俺と一緒いてくれよ」

 

結婚式を挙げたばかりの人が言うセリフじゃないよ、と、この天然の人たらしにただ揺さぶられてるだけな気がしたけど。それも含めて大好きだった。バカみたい。だけどそんなバカな先輩が大好きだった。

 

26歳の冬。気づいたばかりの8年目の恋に、無理やり幕を下ろした。